# 表現プラットフォームへの招待1.0
## 1 表現プラットフォームの目的
### A プロジェクトの目的
本書は平成30年度 学部研究費による共同研究プロジェクト「経済学部のすべての人のための表現プラットフォームの検証実験的研究」(研究代表者・野村一夫)の一環として制作された招待状です。
この研究プロジェクトチームのメンバーは次の通りです。
野村一夫:表現プラットフォーム構築と運用、モデル授業担当、ハブチーム運営
高橋尚子:情報学教育参照基準からの検証
根岸毅宏:経済学部教育における位置づけ評価
金子良太:テスター
【研究目的】
①研究経緯:研究代表者は本学「平成28年度特色ある教育研究」および「平成29年度特別推進研究助成金」採択プロジェクトとして「授業の作品化」と「作品制作過程における学びの組み立て」について研究を推進してきた。その中で業務用クラウドの用途開発を企業と協力しておこない「表現プラットフォーム」の構築を進めてきた。
②高等教育を主体的学習にシフトさせていくには、教員と学生が使える教育用の表現プラットフォームが必要である。学んだことを表現することによって新しい知識を学生たちが個体発生的に再生産することによって主体的学習は進む。
③経済学部学生の場合、ビジネスに直結する多彩な表現形式を経験する必要がある。同時に教員サイドもまた洗練された表現活動のためのプラットフォームが必要だと考える。
④そこで本研究では、過去2年の研究プロジェクトで用途開発してきた表現プラットフォームを経済学部の教員学生等に開放するために、どのような環境整備が必要であるかを実証実験する。これが成功すれば、高等教育におけるメディア・プラットフォームの条件を先駆的に提示できるとともに、表現活動を活かした新しい人文社会科学教育を構想できる。
【研究計画・方法】
①可能な表現形式:表現プラットフォームで想定している表現形式は、読書ノート、研究ノート、論文、ソーシャル的投稿、チャット、ラジオトーク、写真、動画、EC店舗展開、カタログ、ポートフォリオ、エントリーシート等。
②クラウドベース:WordPressによるウェブ、Workplace by Facebookによる作業用ソーシャルメディア、直接文章などのコンテンツを執筆できるStock、クラウドベースで版下制作ができるToppan Editorial Navi、PDF入稿によるオンデマンド印刷。Office365とG-Suitとこれらを組み合わせて表現プラットフォームとする。
③サポート態勢:今年度は野村ゼミをハブとしてサポート作業を請け負うという前提で学部内でモデル授業を募集し具体的に表現プラットフォームを運用する。
④上記の活動をおこないながら、問題点とノウハウを蓄積し、経済学部教育や情報教育として評価する。同時に認知科学的転回に基づく高等教育の新しいスタイルとして全国の大学に提案できるようにしたい。
⑤報告書に基づいて論文を投稿する。基本的な考え方とマニュアルを整備して印刷配布して議論の場を作る。
### B メゾメディアの考え方
「メゾメディア」という概念は、2016年度におこなった「国学院大学 特色ある教育研究」に採択された「すべてクラウドによる授業の作品化」プロジェクトで初めて提案した概念です。私の造語です。
メゾメディアとは、配付範囲あるいは到達範囲を限定したメディアの総称です。マスメディアは全面公開が原則です。だれでも一定の条件を満たせば、情報・知識・コミュニケーションを得ることができるメディアです。たとえばテレビを買えば誰でも番組を観ることができるというように。
逆に「通信」と言われるメディアは、一般に公開されません。当事者同士でコミュニケーションをおこなうためのメディアです。
「メゾメディア」と呼びたいメディアは、マスメディアと通信メディアの中間領域にあります。**ある一定の範囲で共有するけれども、共有範囲が明確に定義されていてコントロールできるメディアのことです。**SNSはその典型です。
そもそも学生の制作物は、発展途上の一里塚なので、そのまま公開するのは難しいのです。よくあるコピペ乱用のレポートが1つでも混じっていれば、冊子の評価がどんと落ち、いっしょに掲載されている制作物も含めて評判が悪くなってしまいます。
だから、大学は学生が書いたものや動画を公式サイトや入学ガイドにはそのまま掲載することはほとんど皆無です。だから経済学部では経済学会の方の費用で学生の論文集を作ったり、独自のサイトを設定して現役ゼミ生によるゼミ紹介を掲載したりしてきたのです。それはあくまでも教育的見地からやっているのです。
**授業での成果物(プロダクツ)は適切な範囲で共有するべきです。**たとえば卒論は指導教員しか読みません。あまたのレポートも、それで終わりです。ゼミ仲間にも共有されないし、まして後輩たちにも伝わらない。伝わらないから授業としては毎年同じような繰り返しで、授業そのものがなかなかアップデートできないのです。それで100年やってきたということです。
しかし、この20年間に急速にアーキテクチャーとインターフェイスの進化が進みました。だれでもブログを書き、だれでもSNSでかんたんにグループ・コミュニケーションができるようになりました。かつてはサーバ管理者しかできなかった設定も今ではだれでも自分やグループの設定をコントロールできるようになりました。
これはネットだけではなく、印刷や放送の領域にも及んでいます。平成28年度「特色ある教育研究」で使用したトッパンエディトリアルナビは、クラウド上でページものを編集できる画期的なサービスです。もともと出版社用に開発されたものなので文庫判と新書判しかありませんでしたが、インターネットとブラウザだけで、こまかい編集作業ができ、ゲラもPDFですぐにできます。EPubもできます。クラウドでないと、こちら側の設備が相応に必要で経費がかかります。クラウドですと、ブラウザだけで済みますし、操作もかんたんです。これは私たちの要望にこたえて現在はA4までできるようになりました。
授業体験もたいせつですが、それをドキュメントとして残すこともたいせつです。そう考えて「すべてクラウドによる授業の作品化:メゾメディア活用実践研究」というタイトルのプロジェクトをやりました。平成30年度はこれをさらに展開したいと考えて大学の特別研究助成に申請しました。そこで提案したのがリアルなメゾメディア工房という「場所」です。工房とはアトリエ。ものを作る場所です。最近はFabと呼ぶのがオシャレなようなのでMesoMediaFabと呼んできました。
平成30年度学部共同研究では、それを一歩進めて「経済学部表現プラットフォーム」としました。
### C 経済学部のすべての人のための表現プラットフォーム
学生だけを対象に考えているわけではありません。経済学部のすべての人のためのプラットフォームです。
教員が教材や研究ノートをかんたんに限定公開できる。
学生・院生はクローズドなグループの中で緊密な情報共有をおこないながら、いつでも議論や企画ができる。
職員が行事資料やマニュアルをしかるべき人たちに情報共有できる。
卒業生とつながることができる。
「1人だけで勉強する」のではなく**「みんなで賢くなる」**のがゼミの本質であり、学部の本質だと考えます。ここはそういう規模で「みんなで賢くなる」ための**ナレッジ・コモンズ**として活用していきたいと思います。
### D 「学生の安全」と「コンテンツ共有」の両立
メゾメディアという概念は、学生が作ったコンテンツの公開にあたって、安全性を優先して、しかるべき範囲とリーチするメンバーを限定して配付・共有するためのプラットフォームを指します。教育現場における適切な範囲内でのコンテンツ共有のことです。どれがメゾメディアかということより、**どのように運用するか**に焦点があります。したがって**「学生の安全」と「コンテンツ共有」の両立**を目指したいと考えます。そのために必要な確認事項を明記しておきます。
(1)メンバーを増やすことができるのは管理者に限定します。
(2)参加者全員に以下の条件のパスワードを求めます。
・12桁以上
・大文字小文字混入
・記号 !”#$%&'() を必ず入れる
・KEANのアドレスを利用しますが、**KEANに使っているパスワードは絶対に流用しないでください。**そこがこのコミュニティにとってのセキュリティホールになるからです。
・覚えられるパスワードは、たいていパスワードの機能を果たしません。パスワードの使い回しも厳禁です。乗っ取られたときの被害がその分、深刻なものになります。
(3)推奨する利用環境
・スマートフォン。主としてパソコンで利用する方も、2段階認証のさいにスマートフォンが必要です。若い人は問題ありませんが、今後スマートフォンを利用しない先生が参加する際には、さきにスマートフォンを用意していただくことになります。クラウド上では、スマートフォンが本人確認の証拠になるからです。
・パソコン。完全なクラウドを使用しているのでOSは限定されません。性能もあまり関係ありません。**とにかく新しいもの**にしてください。HPやASUSの3万円のものでかまいません。もちろんタブレットも使えます。iOSでもAndroidでもWindows10でもかまいません。学部レベルにチューニングしてありますので、LINEのようにスマートフォンだけで十分なワークはできません。必ず用意して下さい。
・ブラウザ。基本はGoogle Chromeにしてください。Chromeにパスワードを覚えさせておくと日常的には手がかかりません。メゾメディア工房をブックマークバーに入れておきましょう。SafariもEdgeも同様です。
(4)**何か納得のいかないことがあれば、放置することなく、すぐに野村までWorkChatでお知らせ下さい。「異変に気づいた人には通報する義務がある」**と考えて下さい。深夜以外はたいてい対応できます。
(5)2段階認証が原則です。必ずスマートフォンと連携してください。
いきなり難しいことを要求するようで申し訳ないですが、セキュリティ確保のため「2段階認証」をしてください。
(6)運用上のボトルネック
**案外、パソコンを持っていない。**
これまではスマホで足りていたと思いますが、これからは両方使うことになります。3万円台のマシンで十分なので何とか手に入れましょう。HPやASUSなどのネットストアで買うと最新のマシンが購入できます。クラウド時代はハードディスクだってもういらないんです。自習室のパソコンを当てにするのはやめましょう。
**案外、メールを見ることがない。**
大学のメールはスマートフォンでかんたんに確認できます。OutlookとExcelとWordとPowerPointは必ずスマートフォンに入れて設定しておいて下さい。ゼミでのプレゼンはスマートフォンのPowerPointアプリでかんたんにできます。HDMIへの変換端子を用意して下さい。HDMIを使えば、学内のほとんどのプロジェクターとテレビが使えます。
**案外パスワードの使い回しがある。**
パスワードはサービスごとに替えるべきです。小さなノートに書いておいてカバンの中にいつも入れておくといいです。無印良品のパスポートノートなら携帯に便利です。パスワードはサービスごとに替えましょう。そうすれば、1つのサービスが乗っ取られたり侵入されても、他のサービスに累が及びません。
## 2 表現プラットフォームの概要
用意したすべてのプラットフォームを使わなければならないということはありません。学びの内容とスタイルによって選択して下さい。
### ワークプレイス:Workplace by Facebook
もっとも基本となるのがWorkplaceです。これはFacebookが提供している業務用ソーシャルメディアです。SlackやLINEワークスなどが競合相手ですが、アカデミックがありません。Workplace by Facebookはアカデミックがあるので、正式に登録して審査ののち無料で使えるようにしてあります。
すでに野村ゼミとFAチームが使用しています。グループを作ると、その中でさまざまな情報共有ができます。画像は私の投稿にしてありますが、学生も当たり前にやっています。
ディスカッションの例:PDFを共有したところ。
A4判の写真集の編集過程のひとこま。
共有した写真もこんな感じで整理されます。
これはラジオトーク動画を投稿してもらったところ。1時間ぐらいの動画も収まります。
イベントもグループ内でかんたんに共有できます。
アンケートもかんたんにできます。個人が特定できます。
ゼミやクラスには向いていると思います。自炊をすれば文献の共有もできます。「秘密のグループ」として設定するのが基本です。外部からはもちろん、他のWorkplace参加者にも見えません。見えないので、基本的に教員か先輩が入るようにして下さい。
招待メールを発行して、2段階認証をしてもらいます。
### WorkChat
これもWorkplace by Facebookの一部です。グループを作るとWorkChatグループも自動的にできます。これはLINEグループとほぼ同じ使い方になります。Workplace登録者は自由にメンバーとチャットグループを作ることができます。
Workplace本体のグループは、大きな括りにして、細々とした連絡はWorkChatでやるのが適切です。たとえば、野村ゼミでは、1セメスター分で1グループを作ってきました。
2年メンバー決定から夏休み「野村ゼミ13期スタートアップ」
2年後期「野村ゼミ13期キックオフ」
3年前期「野村ゼミ13期トランスモード」
3年後期「野村ゼミ13期セオリー道場」
3年2月から「野村ゼミ13期シューカツエンジン」
イベントはそれぞれのグループ内で設定します。数人の作業チーム単位ではWorkChatグループを作って、そこで連絡や議論をしてもらいます。ゼミやクラス全体のWorkChatグループが基本です。
### GSuite
5年ほど前にGoogleのGSuiteアカデミック版を登録しました。審査ののち無料で使用しています。現在はメーリングリストやGoogleDriveに利用しているだけですが、Workplace by Facebookの前は、ファイル共有を中心に活用していました。ドメインは@kgi.tokyoです。たとえば私の場合はnomura@kgi.tokyoになります。ビジネス用と同じフルスペックですので、およそクラウドでできることはたいてい可能です。Office365とほぼ同じと考えて下さい。ただしYouTubeがあります。動画投稿もかんたんです。ただしローテクな人によっては、わかりにくい使いづらいと言われることがあります。
招待メールを発行して、2段階認証をしてもらいます。メーリングリストもかんたんにできます。
### Stock
リンクライブ社(http://www.linklive.co.jp)が開発したStockを採用しています。これはベータ版から使っていて、平成30年2月から有料になりました。業務用ですが、大学としては最初に使い始めたので、有料化する際にも意見を言う機会があってアカデミックプライスを設定してもらっています。
そもそもStockを採用した理由は以下の通りです。
1. 当初、クラウド上のライティングスペースとしてGSuiteを予定していましたが、学生が使い切れず、共有範囲の調節もむずかしいために、クラウド上のライティングスペースを探しました。Stockは業務用の文書管理クラウドなので、特定の文書にコメントが付けられます。共有範囲も微調整できるのが好都合でした。
2. 文書作成はWordでできそうなものですが、Wordで書かれた原稿をクラウド上に置き換えるのが、じつはひと手間かかります。加えて古いWordの予期せぬ指定が悪さをして、途中でエラーが出ることが多々あります。この指定は見えないので苦労します。というわけで、作品を制作するときはWordを推奨していません。
3. 文書管理クラウドとしてはサイボウズ社のKintoneがありますが、1人あたりの月額料金になっていて、被験者の学生の人数を契約するとなると高価です。
4. Stockであれば、スマートフォンでも文章が書けます。これはパソコンを所有していない学生に書かせるためにはとても都合がいいです。
5. チーム単位で原稿を書き、それをまた修正する作業に向いています。しかも、かなりシンプルなのがとても使いよいと思います。同様のクラウドサービスとしてはEvernoteがありますが、こちらは複雑で、リテラシーが高くないと使えません。とくに共有の設定をまちがえるとリスキーな事態が発生しますので、クローズドであることを保証してもらえるサービスでなければなりません。これはGSuiteもOffice365も同様です。
6. 登録を一斉に「招待メール」という形でできるので、まとまった人数を登録するのに向いています。
というわけで、だいたいの流れは次のようになります。
1. チーム単位の打ち合わせや連絡は、チーム専用のWorkChatでおこないます。
2. チームで決まったことはWorkplaceに投稿してゼミ全員で共有します。
3. 完成原稿はStockに投稿します。Word書類はドラッグすると、ここに収まります。
4. 印刷用のファイルやネット公開用のファイルは、Stockに保存することにします。
ここではファイルを軸にチャットができます。主役はファイルです。完全原稿になったものをここにアーカイブ(貯蔵)します。ここがそのまま成果物の倉庫になります。
Stockは**ライティングツール**としても使えます。直接、自分のノートに書けばいいんです。Stockに満足できなくなったらEvernote(無料)をおすすめします。
### WordPress
現在公開されているウェブサイトの多くがWordPressで制作されています。MySQLというデータベース上に個々のコンテンツを記録して、それを動的に組み合わせてページを表示します。HTMLはわからなくてもいいんです。
デザインは「テーマ」と呼ばれるスタイルシートのセットを差し替えることで、サイトのデザインをすぐに変更できるようになっています。
2002年から「特色ある教育研究」でkuin.jpを立ち上げ、その後、学部共同研究と経済学会で運営してきました。ゼミ募集の時にも活躍しましたが、これはいったんが平成29年7月に終了しました。そのうちフィールドワーク関連の記事をまとめていたKaleidoscopeは現在私のサーバー上に移築してあります。移築のさい、他のゼミなどで活用してもらえるよう、WordPressにhttp://Econorium.com を設置しました。Kaleidoscopeは古いHTMLで作られていますので、そのままサブディレクトリに移築しました。http://econorium.jp/fur/
このサーバー上には私の「ソキウス」https://socius.jp もありますし、途中で停止していますが、野村ゼミ企画「トランスメディアマガジン計画」のサイトもあります。https://transmedia.tokyo.jp また、私が終活を始めた際に本やCDをリユースするためhttp://memefab.me をゼミ生が運営したこともあります。これは本物のECサイトのウィジェットを組み込んであって、バックヤードに在庫管理や会員管理などがちゃんと揃っていて、まともにECサイトのしくみを勉強できるものです。第2期が終了したところで、現時点では第3期準備中です。
1つのレンタルサーバー上にはいくつもWordPressサイトを立ち上げることができますので、デザインにこだわりのあるチームサイトも用意できます。ただし個人の管理なので、アーカイブを保存した上でサイトを削除するといった事態がないわけではありません。
### トッパンエディナビ
Wordで作成して、それをコピーして冊子とするというものが、まったく手に取られないという現実があります。それを何とかしたいと考えていて出会ったのがトッパンエディトリアルナビです。凸版印刷が作った出版社専用のクラウド型編集システムです。出版社以外ではうちのプロジェクトが最初になりますし、この本はそのシステムとオンデマンド印刷を組み合わせたビジネスモデルの最初の1冊になります。判型が文庫と新書しかなかったために、多くは電子書籍用に使われていたのでした。これだと、もうAdobeInDesignを使う必要がなく、しかも文章中心で本を作ることができます。
次は平成29年度「特色ある教育研究」で作った本。
次は平成30年度特別推進研究助成金プロジェクトの中でゼミだけで作った本。大判のはA5判フルカラーです。
ブラウザだけでできるので、どの学生でも自分で記事を登録できています。校正はそのつど印刷用PDFを請求しておこないます。クラウド側で印刷用のフォントに交換するので30分ほど時間がかかります。そうするとトンボ入りの校正刷りが出てきます。
郵便もUSBメモリも必要ありません。しかも高品質です。フォーマットが1ダースぐらいにしぼられているので、テキストや画像データを流し込むだけで高品質な本ができあがります。私はこれを本学全体の教育研究用プラットフォームにすれば、いちいち申請とか競争入札とかしなくてもいいと考えていますが、学内の反応としては「そこまでしなくても」という感じです。
### 製本直送
PDFがあれば、同人誌専門の印刷屋さんですぐに冊子になります。もちろんコピー機でも可能です。それをネット上で全部済ませることもできます。私が使っているのは[製本直送.com | 1冊から注文OK。安さと高品質のオンデマンド印刷](https://www.seichoku.com/))というところです。
ゼミコンテンツをいろいろ作ってきましたが、こういうものもかんたんにできます。ただし公費では競争入札が必要ですので、営業さんが来ない印刷会社にウェブから直接発注はできません。
## 3 Office365との連携
大学ではOffice365がフルに使えます。ほんとうはSharePointも解禁して自由に使えると一元化できると思いますが、なかなか難しいようです。
もちろんK-SMAPYIIがありますが、教室内で学生にアンケートを取ったりディスカッションをするには不向きです。大教室であってもインタラクティブであろうとすると、モバイルファーストのクラウドにした方がいいと思います。幸いWi-Fi環境が強化されて、大教室で一斉にアクセスできるようになりました。
私が愛用しているのはOffice365の中にあるFormsというアプリです。と言ってもスマートフォン用のアプリはまだありません。ウェブから入ります。
大教室科目の試験をやめて平常点評価にしたので、このFormsを駆使して毎回ここに課題を投稿してもらいました。
これの解答は長くなるので、もう少し感想めいたものをキャプチャーしてみましょう。
これは翌週の授業の冒頭で共有するように投稿順と解答だけを表示していますが、Excelでダウンロードするとフルスペックのデータが出てきます。
マイクロソフトはFormsProを近々リリースするとのことです。これは双方向授業に使えると思います。
## 4 表現プラットフォームを駆使する学び
### A 授業の作品化
どんな授業体験も受講者の記憶にしか残らないために、同僚にも学生にも伝わらないことにずっと苛立ちを覚えていました。ネット公開よりも印刷物を手渡しする形で配付するのが安全ですが、印刷物にするのは難易度が高い。エディナビは、いったん新書判に体裁を決めてしまえば、デザインのことはほとんど考えなくていい。学生アルバイトにもトレーニングがほとんどいりませんでした。
他の授業の成果物として手触りのある目標物を可視化して見せることができるのは教育上大きな利点があります。ゼミ募集のブースで成果物を並べていると、多くの学生たちがゼミやクラスの本を手にとってビックリしていました。就職活動にも勉強の成果として提示できます。文庫判・新書判は収まりがいいので、本棚に残る確率も高いでしょう。学生に作品を持たせることの重要性は、目の前のセンター試験廃止以後、ますます増すと考えています。
エディナビはクラウドなので研究室と自宅のiMacとChromeでアクセスして作業しました。Adobeのように使いこなすまでに時間がかかるツールとはちがうのです。学生アルバイトにもトレーニングがほとんどいりませんでした。かつては学生にAdobeを使用させるためにインストール済みのパソコンを貸与するやり方をしてきたのがうそのようです。印刷についてもオンデマンド印刷でリーチをコントロールやり方をとりました。通常、公費で印刷発注するには入札から始めなければならないし、1つ1つの授業ごとに前年度に予算申請しなければなりませんでしたが、エディナビは包括的な委託費として計上できたので、実施年度には編集に集中できてとてもよかったと思います。
他の授業の成果物として手触りのある目標物を見ているので、続く学生たちはそれなりにがんばったように思います。就職活動のさいに提示する学生もいます。経済学部では2年前期にゼミ募集をするのですが、ブースで成果物を並べていると、多くの学生たちがゼミやクラスの本を手にとってビックリしていました。同じような授業体験をしているはずなのですが、こうして残っていることが衝撃だったようです。文庫判・新書判は収まりがいいので、本棚に残る確率も高いでしょう。学生に作品を持たせることの重要性は、目の前のセンター試験廃止以後、ますます増すと考えています。
### B 公開するマインドセット
表現して公開する機会を増やすというのが本プロジェクトの目的です。たとえば野村ゼミでは次のようなモットーを掲げて取り組んでいます。
1. 現在のトランスメディア環境について総合的に知識を学ぶ。ジャンルや技術の枠組みにとらわれない視野を獲得する。
2. 速攻で何でも作ってしまうクリエイターとして、いつも作品あるいはプロダクツを制作できる人になる。
3. 即興的に自在なコミュニケーションができる人になる。
4. 誰にも負けない読書力をつける。
5. 好きとか嫌いとかにとらわれない高いレベルの対話的知性をゼミに生み出す。
そして「ゼミの5つのエンジン」として次の5項目をモットーにしています。
1. ノンジャンル(好奇心いのち! 好きか嫌いかはどうでもいいじゃん)
2. 速攻(前のめりでスタートダッシュ! スピード感を優先する)
3. プロダクト(ひたすら作品づくり! 作ってみないとわからない)
4. 即興と対話(手ぶらで何が言えるか、何ができるか、何をわかりあえるか)
5. オープンなマインドセット(すべて公開する不屈の根性)
ゼミの作品形式(メゾメディア)としては次の3つのレベルになります。
レベル1(非公開コンテンツ):Workplace、WorkChat、Stock、ゼミ内プレゼン、企画編集会議、対話、討論、メゾメディア工房(815研究室)でのティータイム
レベル2(公開コンテンツ):名刺、パンフレット、新書、ラジオ番組、公開ウェブ。
レベル3(作品としてのゼミ):ドキュメンタリー
使用するクラウドツールは次の通りです。
1. Workplace by Facebook(ゼミ活動をタイムラインで共有)
2. WorkChat(かんたんな打ち合わせ)
3. Stock(完成稿ストック)
4. G-Suit(@kgi.tokyo)Googleエデュケーション
5. Toppan Editorial Navi(トッパンエディナビ・ゼミの手帖と新書制作)
6. プリスタ(http://www.printsta.jp/) ・名刺制作)
7. MEME PAPER(リーフレット、カタログ)
### C タフな議論能力
**非同期型のメディア**は、それなりに余裕があるし、テキストになるので「言った言わない」トラブルが少ない。ただし**テキストに置き換える言語能力**が求められます。ですから、毎日考えたことをFacebookに書いていると、リスポンスを返してくれるのは、高い言語能力を誇るハイスペックな大学教授ばかりになります。教え子たちはFacebookのAIによって私のタイムラインから消えてしまいます。逆もそうなんです。
大学は総じてのんびりしています。たいていは巷間ビジネス文脈で言われているほどスピード感はありません。
理由はいくつかあるでしょう。
(1)優先順位をまちがえている。**公的なものが優先するはず。**
(2)**決断ができない。**考えたり調べたりしないから思考停止する。つまり手数を惜しむから決断できない。
(3)処理能力が追いつかない。**数をこなせない。**
(4)**リア充方面を優先している。**だったら引きこもってはいけない。
他方、**何か判断を求めている人には明確な理由があります。それに無反応でいることは、実質的にはブレーキをかけているのと同じ効果になるんです。本人は「自分は何もしていない」と思っているかもしれませんが、そうではありません。相手に「ノー」を突きつけているのです。沈黙は「ノー」なんです。**
だから、そういう人は次のことをすべきである。
**なるべく現場に立ち会う、顔を出す。**
**だれかにヘルプして引き上げてもらう。**
**自分のコストの損得勘定をやめてみる。
**感情計算はやめた方がいい。**
私の第一の希望は**「リスポンスのよい人」**になってもらいたいということです。その最初の第一歩が「いいね!」(Like!)なんです。「いいね!」なら、それに対して反撃することはルール違反になりますから安心して付けて下さい。
**リスポンスを返すことからコミュニケーションが始まるのです。**リスポンスがないとコミュニケーションは始まらない。原理的には、これだけ押さえておいて下さい。
だから、ここでは「読んだ、わかった」という意味で「いいね!」をしてください。「何ですか、これ?」というときは、そのようにコメントして下さい。そこからコミュニケーションが始まるはずです。あまり「責任ある言動」なるものに囚われる必要はありません。そのうち勉強していきますが、そのようなものが言われる組織から何か創造的なものは生まれません。創造の芽を摘むだけです。
というわけで,お気軽に「いいね!」してください。まずはそこから始めましょう。
「メゾメディア工房」のちに「表現プラットフォーム」をWorkplace by Facebookに設置したのは、LINEやTwitterよりじっくり時間を取りたいと考えたからです。容量も多いし、ずっと残ります。タイムラインは必要だと思いましたが(ケースマにはそれがない)もっと複線的でないと、じっさいのゼミ活動には対応できないし、1人ひとりの温度差や瞬発力の差もタイムラインに吸収できないだろうということです。
だから、何日前の投稿であっても、**いま「読んだ、わかった」なら,その場でリスポンスを返せばいいんです。**そういう人がたくさんいれば、そこが現時点での「旬」なんです。Workplace by Facebookも、そうなるようにできているはずです。なぜなら、リスポンスがあった時点からコミュニケーションが始まるからです。
### D 学生のポートフォリオへの展開
ゆくゆくは、こうして作品化したコンテンツをクラウド上で束ねることができればポートフォリオになります。教育現場における「表現プラットフォーム」の実践的目標はここにあります。この点については継続して研究していきたいと考えています。
「表現プラットフォーム」について関心のある方は、教員・学生・院生・職員を問わず、野村までお問い合わせ下さい。815研究室。
R707FF@kokugakuin.ac.jp
表現プラットフォームへの招待
著者 野村一夫
発行 2019年2月21日
本書は平成30年度経済学部共同研究プロジェクト(研究代表者・野村一夫)の成果物である。謹んで感謝したい。
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